《MUMEI》

ほとんど家にいない母親の作り残り、ピザにコーラはもう飽きるほど。昔から引き篭もりではなかったぼくには、もうそろそろ耐えきれなくなっていた。そして七ヶ月ほど過ぎた頃、いつもと同じ行程を繰り返すぼくに、ある物が目に止まった。
 世界各国のナイフが此処にはある。オールドガーバー、カスタムナイフ、オールドコレクション。
 一言にナイフといっても色んな種類がある。すでに記念ナイフは数本は持ってるけど、学生の頃なんてほとんどバイトの金は遊びに費やすだけ、だから買うといっても精々一万から二万円くらいだった。仲間とつるんで手に入れた腕時計とかブランド品も、結局は質に入れてお金にすると山分けだからちょっとずつ。ほくに特定の彼女はいなかったけど、それなりに遊びのお金はかかる。
 働いてないぼくにはどうせ高価なナイフが買えるはずもない、とあきらめていた。
 でも見つけてしまった、絶対に手に入れないと後悔する。このサイトを閉じてしまったら、二度と手に入らなくなってしまうのではないだろうか?と思ってしまうほどに、ぼくの心臓は高まっていた。今まで何度もホームページは巡回した。でも、こんなサイトあったっけ?
 どこからココに辿り着いたのかまったく覚えがない。濃いグレーに血液で書かれたような文字、撮られた画像をクリックすると思わず、うっとりするほどのきらびやかなゴールドやシルバーのナイフが視界に入って来る。
 翡翠のはめ込まれた柄にクラシックナイフに、ワイルドチックなハンティングタイプ、提携モデルのナイフに医療用のナイフまで並んでいる。形もさまざまだし、箱を見るだけでも高級そうな物まである。一般的には実用的なナイフがありふれてる中、あらゆる世界の有名サイトが今ぼくの真ん前で展開し、まるで競い合ってるかの如く輝きに満ちている。
 その中でも、ひときわぼくの目を惹いたのは1987年製のクラシックタイプだ。柄の樹の部分には、白虎がかなりの存在感を持ってあふれんばかりに掘り込まれている。そして金属の鋭利な刃には、青龍と朱雀がまるでたわむれてるかの如くしなやかにかつ凛とした面持ちを失わないでいて、玄武と混ざり合い折り畳み部分まで模様を損なわないでいた。

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