《MUMEI》

よく解らなかったけど、確かめずにはいられなかった。部屋には窓が二つある。今度はもう片方のブラインドを押し上げて庭先を覗き見てみた。
 何も動かない。静かに穏やかな風だけが木々を揺らしていた。一瞬、車の音でビックリしただけで、さっきのは何だったんだ?
 そう思うとなんだか影のようなモノが動いてるように見えてくる。どうせ母親の洗濯物の取り入れ忘れか、捨てたゴミが風で庭に転がったとかだろう。
 そんな何気ない感覚と、のどが渇いたこともあって一階に降りてみた。
 天気が良かったから換気のために開けっ放しにしてあったリビングのカーテンの隙間から、何か小さな毛皮がチラリと見えた。ぼくは普通に近付いてみた。でもソレはまったく逃げようとしない。
 よく見るとメインクーンのようなトラ模様の猫、多少痩せ細って血統の風格は落ちていたけど、まだそれほど汚れてはいなかった。
 驚いたーだって野良猫なのに逃げようとしない。ジーっとぼくを見据えている。だからぼくもなんとなくジーっと同じように見据えてみる。そのうち根負けしてどこかに行くだろうと思ったけど、懐かしそうで哀しそうな陰を含んだ表情は、逆にぼくの心を捕らえて離さないまま、しばらくずーっと見つめ合うことになっていた。

 迷子になったのかな?それとも危ない目に合いそうになって逃げて来たとか…

 短い時間に色んなことがぼくを妄想に走らせた。影のある視線が寝たきりの弟をダブらせた。

 ユウヤは優しい弟だ。動物を愛し、人間を疑わない。ぼくからするとーとんでもないバカにも見えるけど、このバカが正真正銘ぼくの弟なのだ。今ごろはベットの上で機械に繋がれ生き長らえてると想像すると、心が苦しくなって胸を切り裂かれる思いでいっぱいになる…
 幼いころからぼくに付きまとって来たユウヤ。いたずらして叱られて泣きながらもぼくの後ろを片時も離れようとしなかったユウヤ。ぼくがいじっぱりになってるときでも、黙って傍ににいてくれたユウヤ。

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