《MUMEI》

二時間ほど経ったのだろうか、右腕は彼女に占領されたまま左手で煙草を吸い続けていた。頭の中は真っ暗で罪も喜びも焦りもなく、ただ呆然とベッドの真上にある鏡を見つめていた。回転する丸いベッドは重さをまったく感じないしなやかな動きで、ぼくらを幸せなカップルとして認めるかの如く永遠にまわり続ける。動きのない気圧は息をするのに害はなく、鼓動だけが生きてる印のように思われた。

 しばらくすると、さゆりが深い眠りに入ったせいか急に右腕が重くなって痺れてきた。目を覚まさないようにそっと腕を抜く。設置してある珈琲ポットから温かいブラックを紙コップに入れて少しずつ流し込む。

 やるべきことはやった。彼女は間違いなく茶々丸の元へゆくだろう。それからのことはぼくには関係ない。

 ぼくは血の通ってない人間なのだろうか?気持ちを寄せて身を任せたさゆりに対して、何の情すら持つこともない。
 常に気になっているのは部屋で待っている大切な宝物と、これからもらえるであろうお金のことだけだ。

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