《MUMEI》
「……消えたい、俺も消えたい…、嘘しかつけねー性格もう嫌だ……、
自分が嫌いで嫌いで……、もう…」
「……じん…、仁は…、嘘つきなの?」
「……ああ、
すっげー嘘つき…、
ずっとずっと俺は嘘ついてたんだ…
本当は俺は…惇じゃなく、拓海が好きだったんだ……
本当は素直に好きだって言っちまえばよかったのに
でもそんな事したら…
だって拓海に…家族に嫌われるのが怖くて…
言ったら俺には家族がなくなるんじゃないかって、
でも言わないでいるのも辛くて
そのせいで俺は惇巻き込んで、結局拓海傷つけて……俺は…
最低なんだ…」
好きの一言は言えないくせに結局俺は拓海を抱き続けた。
せめて体だけでも欲しかった。
俺に縋り付く手が堪らなく愛しかった。
「じんっ!じんっ!本当に?本当っ?俺が好きって本当?惇じゃなくて俺が好きって本当?」
俺を見つめてくる大きな目からは涙が零れ、その表情は見たことがない位可愛いかった。
惇と双子のような顔をした拓海。惇との違いは素朴さを含んだ派手さのない、ごく普通の雰囲気。
でも俺にはそれが落ちつく。
「…本当、これだけは本当…、ずっと、ずっと俺は……、拓海が…拓海だけを…
一途に愛してた、
今でも…
拓海を愛してるよ」
「………俺も…、
俺も…、じんっ!う…れし…い…、ずっと…ずっと愛してた………」
▽
▽
−簡単な事だった。
ただ素直に好きだと愛してると告げれたらよかっただけだった。
拓海を抱いている間、拓海は何度も俺の名を繰り返し、
好き
愛してると
今まで無理矢理封じ込めていたものを吐き出すかのように繰り返した。
必死にしがみつく手。
求める唇。
素直に跳ねあがる体…。
ただ、おとなしく犯されているだけの、いつも泣きそうにしていた弟の姿は消え去り…。
その代わりに俺の腕の中には全てを俺に任せた、恋人になった、自信に満ちた拓海がいた。
「もう一回愛してるって言って?」
「…愛してる、愛してるよ拓海、……消える時は一緒だ……」
拓海が幼い頃、怖い夢を見たと言っては俺の隣に滑り込んできた。
その時と同じように俺は拓海の背中を優しくそっと撫でだした。
「……じん…………」
眠りにつく拓海。
ここに来てからほとんど眠っていない。
俺は拓海が起きるまで抱きしめている覚悟を決め、拓海の髪に顔を埋めた。
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