《MUMEI》

出口は一階フロア先で、ここは七階。二つあるエレベーターのひとつは、ひと足早く出たカップルによって降りて来てしまってる。片方ののエレベーターを待ってる時間はない。
さっき古いホテルで良かったと思ったとこだったけど、今はこの状況を恨むしかなかった。もう一度確認する勇気はない。見つかりたくない。早くどこかに消えてしまわないと。
 
 焦ったぼくの行動はかなり安易だった。とっさに一番奥にある壁沿いの扉の部屋まで一気に走りベッド奥の間接照明とグリーンベルベットでコーティングされた壁との間に逃げ込んだ。
 途中掃除の人が入って来たらしかったけど、流石にさゆりが探しに来ることはなかった。結局ぼくはお金も払わず此処に潜み、誰にも見つかることなく息を殺して四十分ほど経過を待った。わずか五十センチほどの隙間は窮屈だったけど、間接照明の硝子からは部屋の様子がけっこうよく見えた。ぼくの入った部屋とは随分違ってグリーンにきらびやかな明かりが神秘的な空間をかもし出していた。

 きっと高い部屋なんだろうなあー

 琥珀自体、さゆりと部屋に入るときは約束をこなすことで頭がいっぱいで、装飾にはまったくこだわらなかったから、入った部屋はレッド調の花柄一色と回転ペットと透けて見える普通サイズのお風呂くらいなものだった。
 でもこの部屋は違う。ゴージャスな貴族が棲んでるみたいに思えるくらい、部屋には透けて見えるグリーンに調和された見るからに高価なーしかも部屋の三分の一を占めるほど大きなお風呂がど真ん中にあって、その周りには熱帯雨林を思わせる樹木のような飾り付け。

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