《MUMEI》 キラリとなびく髪をかき上げシャワーを浴びにバスルームへゆく。そのとき一瞬こっちを見たような気がして焦ったけど、どうやら偶然の視線らしい。再び体を隙間にそっと沈めた。気絶した男とたとえ一瞬でも残されるのはイヤだったから、この隙に逃げ出してしまおうかとも思ったけど。この状況を最後まで見届けない訳にはいかなかった。 美を超えた戒めを目撃、多分最初の傍観者として、すべての成り行きをラストまで見てしまいたい好奇心でいっぱいになっていた。 もうぼくは勝手に天女のしもべであり、儀式の一員になってしまっていた。 やがて体にまとわりついた血を洗い流した彼女は来るときに着てきたのショッキングピンクのワンピースだけを身にまとい、何事もなかったようにバックと履いて来たミュールで部屋を後にする。 気絶したままの男。彼女の消えた殺風景な部屋。さっきまでの甘い香水の香りはもうしない。獲物が果てているだけ。戒めなる儀式は終わったのだ。 もう此処には何の用もない。 そう思うとぼくはさっきまで隠れていた自分とは思えないほどの勇気と行動で、すっくと立ち上がって部屋を堂々と出て行った。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |