《MUMEI》

ホテルから部屋に戻るまでの足取りはまったく覚えていない。ただ天女の美しい裸体と氷のように表情のないマスク、光のない哀しげな瞳に宿る漆黒の世界に繋がる闇。儀式とも思えるこの世にあってはならない無情な仕打ちも、神からの許しを受けて成されているとしか思えないほどにー思考は無意識に何度も止まることなく繰り返された。
 ずっと深い穴で篭もっていたぼくに、真っ直ぐ闇からの光が映し出された。ヒンヤリと何故かうっすら哀しみを抱いたミルク色の世界。誰にも踏み込むことは出来ない。ぼくにとっては純粋な天使の哀しみ、猛りのように感じられた。だからぼくは何かを答えなくてはならない。偶然はすべて必然にて起こるもの。
 思わぬ光景を目の当たりにしたぼくは、起こるべくして起こった状態をしっかり記憶に刻みつける。いつか出会うであろう天女の輝きを浴びるためだけに…

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