《MUMEI》
ルナ
両親の事故により、一人娘だった幼いルナは一度施設に預けられることになった。どうやら親戚の間では子供らしくはしゃぐこともなく言葉の少ないルナのことを異質なモノとして認識していた様で、受け入れることをかなり渋った結果こうなってしまったようだ。

 どこに連れて行かれても同じこと。

 うっとうしくて、ルナにとってはどうでもよかった。いっそのこと汚れたこの世界から何事もなかった様に抹殺してくれればいいのに、とさえ思った。
 夏とゆう何かの始まりを期待する好奇心で溢れんばかりのこの季節。世間では家族連れで旅行したり、遊園地に行ったり、おじいちゃんやおばあちゃんの家に帰ったり、友達同士で遊んだりーとくだらないことを満喫している、そんな時期。ルナはこの辺りでは有名な由緒ある施設に預けられた。
 特に園長は自分に子供がいない事と、急に事故で両親を亡くした可愛そうな女の子とゆう設定が気に入ったみたいで、とても優しく迎え入れてくれた。普通は至急されるだけの洋服でなんとか暮らしていかないといけないところ、ルナには特別好きなものを買ってくるようにーと内緒でこっそりおこずかいを上げたり、廊下ですれ違うときに髪をなでたり。まるで源氏が寵愛する紫の上のように。
 しかしたとえこの由緒ある施設の主であっても、隠居に半分足を突っ込んだ園長が何かを動かすほどの権限はなかった。情を持ち特別扱いで優しくすればするほど、ルナは周りの反感を買い冷たい仕打ちを受けるハメになってしまうことなど、思いもしなかったのだ。
 特に園長の内縁の妻はおもしろくなかった。妻といっても園長にとっては二度目の若妻、けして色気を失う年齢ではなく、園長もこの後妻には何も言えなかった。

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