《MUMEI》

深く音のない海底に私は永遠に沈んだまま、声を出すことも許されない鉛(なまり)。哀しくも時間だけは何事もなく経過してゆく。見つけられたい感情はもうすでに失せてしまった。気配のない闇の底辺。

 あー海の中にいるのにのどが乾いて仕方がない。


 記憶が炸裂するこの季節。他人は何かを期待し夢見るこの時期、私は世間の泥と錆びで汚れきった体を癒すことしか考えていなかった。きっと生まれて来てはいけなかった存在。世の中に居るべきではナイ人間が存在するとしたら、私は深海で沈んで海の底から太陽をあおぎ見てる鉛(なまり)となる。
 永遠に救われることもなく、錆び付いても消えることさえ許されない存在。誰かに助けてもらおうとも思わない。美しいものは汚れた闇をきらい、鉛(なまり)はただ無駄に輝くだけの場所を避ける。だから私は独りで体を洗い流しに時々この場所をおとずれる。
 海とはいえないほど小さなこの場所はタクシーで約二十分ほど。広がる海の一番端に区切りのようにある。岩に囲まれた場所で、私は唯一ブルーフィッシュになれる。夜空からは星だけが見守り、海の底は私を年に一度しかおとずれない織り姫のごとく柔らかいお布団で迎え入れてくれる。

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