《MUMEI》

どうしてこれまで気付かなかったのだろう?何度となくおとずれた私だけの秘密の場所に、もう慣れ切ってしまっていたのだろうか?驚きと歓喜の叫びが私を鮮やかな空間とブルーフィッシュに成り切った自分の化身に祝宴をもたらす。帰らなくてはならない焦りをよそに、このまま本当に化身になってしまいたい、そんな思いでいっぱいになっていた。
苔の隙間から岩と思っていた形は、この世の神なる存在がそっと静かに生み落とされた残像だったとゆうことを。感情が高ぶって抑えられなくなる前に、夜明けと共にこの場所を後にした。


 真夏の太陽は苦手。やっぱり此処は落ち着くわ。大学からの帰り道、ほど近い場所に安らぎの場所がある。クーラーの効いた大きな図書館の二階の階段を上がって一番の奥の先まで歩いてゆくと長方形の末端、左端の棚に隠れた場所がある。そしてそこに置かれたたったひとつのベルベットで薄紫の蓮の華を象った椅子。
 この椅子を創った人は本当に存在するのだろうか?一枚いちまいの花びらを決して省こうとはしない、繊細できめ細やかで創った人の心をそのまま手に取るように感じられる温かさ。座っているだけで涙が出て来そうになってしまう。

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