《MUMEI》

いぶかしんでいる私の反応を見て、とっさに無防備な表情をした男の子は会話なるものをしようと試みてるみたいでー

「ぼく、あのとき同じホテルにいたんだ。女から逃げたくて一番奥の部屋に逃げ込んだら君たちが入って来ちゃった。だからー全部見ちゃったんだ」

 ウソ…

まろやかな美声なのに、淡々と語りかける相手に一瞬ためらい、持っていかれそうになった。

 こんな男の子は初めて…

だってあんなすごい場面を見て普通に、いや、普通どころかこんなに冷静にーしかも人間離れしたトーンで話せるはずがない。

 よっぽどのマゾやキリストさま以外は。

 呆然としてる私を見て、さっきからずっと包み込むような瞳で見つめる目の前の男の子に、なんだか無性に腹が立ってきた。そして気を取り直していくつか質問を続けてみる。
 実際街中で男をつかまえるときは金髪巻き髪スタイル、今は当然学校帰りの延長線上だからーロングストレートのリアルなブラックだ。流石に髪型と化粧、服装までもまったく違う私を見分けることは不可能なハズ。それでも自身を持ってこちらを覗き見てる視線には凛としたものがあって、何故かいつものようにかわせない自分が居たりする。

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