《MUMEI》
琥珀
ここは教会?ステンドグラスのはめ込まれたガラスはしっかり重みのある、英国調に彫られた模様の柱に支えられていた。最近立てられたにしてはかなり重厚感がある。街中から裏に一本入った突き当たりにこのマンションはそびえ建っていた。見たことのない物件は多分デザイナーズマンション。

 大理石のエントランスを踏むには、けっこう勇気がいるなあ。

 そんなことを考えながらルナのおっかけ日々は続いていた。ほとんど口を聞いてくれないルナ。一方的に付きまとってるだけのぼく。それでも一定の距離感を保ったまま、同じ時間を共有することには成功していた。
 部屋で一人で待っている白い少女は今や、ぼくの守護天使となってルナとゆう異質な輝きを持つ天女に巡り逢わせてくれた。
 時間だけをムダに過ごしていたぼくにとって、いつの間にか殻の中に閉じこもって喜怒哀楽。生きることも死ぬことも投げてしまっていたぼくにとって、時計の針に命を吹き込むこともなく、秒針に鼓動を合わせるようにしか過ごしていなかったぼくにとって。
 やっぱり神様はどこかに存在するのかもしれない。心の中とかでなく誰にも解らない世界で、人がひとにすべきことを一つひとつ与えて、それをまっとうする宿命をこの世にもたらし世を紡いでゆく。

 あれからいつも持ち歩いてる重厚な陰陽ナイフが重みを増して来る。右ポケットにそっと手を入れて柄の樹の白虎を指でなぞり、ぼくが生きてる存在であることを確認する。ぼくの生活にもう引き篭もりは有り得なかった。

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