《MUMEI》

とりあえず名前を交換したときに渋々教えてくれたアドレスを頼りにメールを打ってみる。

 三十分経過、一時間経過、二時間経過...返信はまだ来ない。
 意を決して電話をしてみた、でも何度かけても留守電のまま。慌ててかけ過ぎて話し中になって焦ってしまったりもした。
 昼間から渋谷の街中を行ったり来たり。疲れてはコンビニでミネラルウォーターをげっとして地べたに座ったり公園のベンチまで行って腰を降ろして次はどこを探そうかと考える繰り返し。

 そして数日が経過した。

 もう限界、とにかくこのままでは落ち着かない。居ても立ってもいられない気持ちはぼくに、思いきってマンションの扉を叩こうとする行為にまで繋がった。


 真夜中の月がやっと昇り切って、霧のヴェールを地球に降ろし始める。そんな幻想的な時刻。大理石の入り口が異様に明るく迎え入れようとしてくれてるマンションは、やはり恐ろしく高級感たっぷりにそびえ立っていた。

 こんな格好でいいのかな。

 静まり返った空間の豪華な柱に囲まれたグリーンとグレー調のエントランスを目前に、いつものストーカー行為とほとんど変わらないよれたジャージ姿で、何度もマンションの前まで来て慣れているはずなのに、今までにナイ重みのある緊張感を持っていた。

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