《MUMEI》

「どうして美羽のとこに行ったの?」

 と聞かれたら困るけど…まあ、なんとかなるだろう。これで遠慮なく扉を叩くことが出来る。扉の前に立ち、ひと呼吸置いてからベルを鳴らした。応答がない…
 でも寝てるのかもしれない。今度は間を空けて数回鳴らしてみた。やっぱり出ない…
 中に居るのかどうか、扉が重厚過ぎて気配がまったく感じ取れない。

 おかしいな、もしかしたら、一度戻ってまた街やクラブに行ったとか?

 安易に思考することで、ここまで来た意味だけでも持とうとする自分がいる。そして、何気にノブに手をかけ回してみると、

 開いた!

 誰もいないハズなのに不用心だと思ったけど、とりあえずー

「おじゃましまーす」

 と言って、誰もいないであろう入り口から、そのまま段差のないフローリングに土足で上がり込んでしまった。

 うっすらとした部屋、照明がどこにあるのかわからない。初めて入るから足場を探りながら一歩ずつ踏み込む。思ったより引っ掛かりなくスムーズに進めた。そしてやっと段差に突き当たる。
 フロアらしき空間からは幻想的な青白っぽい光がぼんやりぼくの足元を照らしている。
どうやら光の招待はブルーの鮮やかな熱帯魚。大きな水槽は小さな水族館を創り出していた。

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