《MUMEI》

一本の角が生えた濃い茶色で麒麟のような像がそっけなく私を迎える。ポケットに突っ込んであったボロボロの紙幣をメンバーズカードと一緒に差し出す。すでに爆音がはみ出して話してもどうせ聞こえないことは解っていることもあって、会話など有り得ない。
扉を開けた向こう側に足を踏み入れると、

 もう自我を捨て去って、いつ自分自身を失ってもかまわないよーと言わんばかりに威圧感のある魂を私に分け与えてくれる。
 
 ロビーを真っ直ぐダンスフロアを突っ切るように進む。アルコールで絡む客、煙の虜になったヤツが腕を掴もうとするのを払い退けながら突き当たりの少し空いた古い木戸を引く。いま通ったばかりの華やかなフロアとはまるで繋がってると思えない十畳ほどの部屋にはもう先客が何人も居た。そしてソレを確認することで自己の崩壊は始まった。

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