《MUMEI》

「最初にしては、いいバイトしたな」

 偉そうに話す茶々丸、さっきよりも近くーでも少し離れた場所で仲間が目を光らせている。マジ気分が悪くなって来た。貰う物もらったらさっさと帰ろう。
 約束通りバイト料はちゃんとくれた、しかも七万!最初の約束の倍はある。嬉しさと同時にさゆりに対する罪が、なんとなくぼくをオドオドさせた。

「へへ、いい女だったよ。今度おまえにもまわしてやるよ」

 聞こえたのか聞こえてないのか周りの連中もヘラヘラしている。

 さゆりは、こいつらにもまわされたのか…

 一度だけ寝たから情がうつった訳ではないけど、後ろめたさだけはどうしても拭い切れない。
 ポケットにお金を捻じ込み、ボーっと遠くに視線をやる。何も思考が働かない状態でいたかったけれども、噴水の反対側に映る影に見覚えがあって、しかもそれは徐々に近付き、次第に確認することに焦点が定まって来る。
 髪は相変わらずウイッグで見かけは金髪ギャル。それに何故か今日はピンクっぽいジャージ姿だけど、近付いて来る影は間違いなくルナと解った。少し驚いたし外に出て来たことは凄く嬉しかったけど、それと同時にヤバイ!と思った。こんな明るい場所で茶々丸に見られてしまったら顔を覚えられてしまう。かなりピンチだ。どうしよう、何とか早く退散しないと。ぼくは焦りを読まれないように気を付けた。

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