《MUMEI》

「これ、病院のお金」

 ルナがいきなりぼくの真ん前にお札を差し出した。確かに病院に連れて行ったときのお金は自分がギリギリ持ってた金額でなんとか支払った。だけどこうゆう場合はもらい辛い。別にいいよーと言おうとしたけど、ルナは強引に胸ポケットに押し込んで来た。
 顔が初めて近付いた。胸が高鳴る。体が急に熱くなってくる。潤った唇を思わず指でなぞりたくなってしまいそうになる。廃虚の中でも陶器の白い肌は完璧にぼくを虜にし、濃い化粧の中に見え隠れする哀しみの感情だけがぼくを冷静に保たせてくれた。

「おつり、今度返すから」

 再び現実に引き戻される。傲慢な態度をとられるかと思ってかまえたら、うつむいた口元はほんの少し優しく微笑むだけだった。
 
 それからぼくは色んなことを話し始めた。
ルナを探すために学校の前で待って初めて美羽と逢って話したこと。バックに付けていた黒兎のブルーの瞳がきっかけになったこと。内容はかなり省略したけど、美羽から話を聞くために近くの珈琲店に入ったこと。それからやっぱり心配でルナの部屋にまで上がってしまったこと。真っ赤に染まったルナを病院にまで連れて行ったこと。そしてルナの部屋で眠り込んでしまったこと。
 美羽から頼まれてたノートを渡してこれまでの経過を語ると、少しだけ警戒心をといた顔で、

「フーン」

 とだけ答えた。それにしても今日のぼくはよくしゃべる。

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