《MUMEI》

数日後、私は久し振りに美羽と一緒にいた。こんな退屈な毎日なんていらないとさえ思ってたのに、今日は少しだけ違う。
相変わらず了解もなく腕を組んできてなれなれしいけど、一方的に話すだけの美羽にあいずち以外の会話も出来るようにまでなっていた。
 琥珀を彼氏だと思い込んでる彼女はこっけいだったし、彼を気に入ってることも話すトーンでなんとなくわかった。
 
 琥珀、知らない振りしてばっかみた。でもけっこう優しいタイプなのかも知れない。
 
 まだそれほど彼のことを知らない私にとっても、思ったより興味の存在になっているようだ。
 ホテルで落とした琥珀の編みぐるみは、私の手を経て美羽、そして再び琥珀の元に返されたと聞いて、妙に不思議な因果を感じ始めていた。
 いつもより左の手首からひじまでしっかり巻かれてる包帯はかなり気になってるみたいで、チラっと見ては気にしない振りをする光景がまた笑えた。いつもの彼女だったら遠慮なく話しを聞き出そうとするのにね。久し振りに逢うと時間は湾曲に流れが変わるみたいだ。
 だから気を使って自分から、マンションのエントランスですべって転んだのーと苦しい言い訳じみたことを言って、フーンと疑り深い美羽を無理やり納得させておいた。

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