《MUMEI》

斜めに上がった口角はニヤリとした表情を変えることなく、ジャラジャラと音を立てて近付いて来る。逃げられなかった。神経がマヒしてしまったのだろうか?
 私は立ち尽くしたままボーっと突っ立っていた。

「待ってたゾー以外と早く見つかるもんだな」

 美羽を掴んでいた男も腕から手首に軽く移動させて、二人で近寄って来た。

茶々丸と、もうひとりは誰?取り巻きのひとり?

 そう思った瞬間に止まってたすべての感覚が一斉に回転し出した。

 早く逃げないとヤバイ!

 でも、すでにもう遅かった。

 美羽を掴んでいた手が緩んだ。どうやら目的は私でー自分は偶然ナンパされただけなんだと理解した美羽は、怖さのあまり

「ごめん、ルナ!」

 とだけ言って男の手を振りほどいて、おごつかない足取りでこの場から立ち去って行ってしまった。

「え…何?」

 助けに来たハズなのに、ミイラ取りがミイラになった。獲物はしっかり私ひとりに定められ、すでに後ろからもうひとりの男の両腕に押さえつけられていた。

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