《MUMEI》

この夜ぼくは恐ろしい夢を見て酷くうなされた。真っ暗な場所にたった独り、何故こんなところにいるのかまったくわからない。いきなり転送されたかの如くぼくは突っ立っている。風はまったく吹き込まない密室状態の中で、空気や温度も感じられない漆黒の闇。手や足元の輪郭すらまったくわからない。
 体は異様に重く気怠く、どうやら重罪を犯した人がはめられている足かせのような物を両足首に巻かれているみたいだった。あまりの恐怖で一歩を踏み出すことすら出来ない。
次第に漆黒の連鎖に不安がつのり恐怖感が増して自分を保てなくなって脚がガクガクしてきた。

「だ、だれか!」

 出ないと思ってかろうじて振り絞って発した声は意外に大きくこだまし、どこからか反響して戻ってきた。
 もう一回、そしてもう一回。最後は泣き叫ぶような金切り声に近い悲鳴で何度も助けを呼んでみた。でも跳ね返って来るのは虚しくも自分の声だけ。しかも叫んだ声が爆音となり、得体の知れない音響となって幾重にも跳ね返って来る。

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