《MUMEI》

 カーン・カーン・・・

 ここはきっと硬いリノリウムの床。そしてこの音はこだまに木霊を繰り返し、どれだけの時間を費やしただろうかやっとのことで光の輪の真ん前に辿り着くことが出来た。
 
 四十センチほどの穴を開ければ向こう側の光の世界へゆける。期待と不安、そして焦る気持ちを堪えてゆっくりと両手でこじ開け息をのみーそっと左足から踏み込み、光の輪の中へ入ってゆく。両足が地面のような地点に到着したと思って胸を撫で下ろした瞬間、ぼくは凍り付き立ちすくんでしまった。

「ウソだろ…」

 たった今入ったばかり世界は、再び音もなく漆黒の闇を抱えているだけの漠然とした世界だった。しかも慌てて振り返った場所にに、入って来たばかりの光の輪は無かった。そしてこれは何度もなんども繰り返されることになる。
 切っても切っても闇しか出て来ない。追いかけても追いかけても光が見えるだけで中に入って抜け出すことは出来ない。ぼくはメビウスの輪の中に居る。どんなにあがいても一生出ることは許されない、メビウスとゆう捻じれた状態のエンドレスループ。

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