《MUMEI》

夢を見ることさえ許されなかったルナ。体は自由でも心は捕らわれたまま。神はいったいどんな宿命を与えたとゆうのだろうか?

 哀しみの根源、硝子の城、闇の聖域、偽りの世界、壊れた人形。

 床に脱ぎ捨てたカーゴパンツのポケットから無造作にナイフが転がっていた。そっと手に取りぼくの陰陽の宝物を重々しく開いてみる。ルナは眩しそうに見つめ、柄の白虎の部分から青龍と朱雀の刃先までをゆっくりと細い指先で撫で下ろしてゆく。ソレは鏡のような輝きを持ち、ときおりルナの顔に反射してはキラキラと存在感をアピールしていた。金属の鋭利な部分がルナの心を軽く揺り動かす。

自分の左手首の包帯を片手で一枚ずつそっと剥がしてゆく。他人には見せたくないであろう深く哀しみの刻まれた傷跡を、自らの意志で魅せてくれた。きっとこれも儀式の一環、きわめて大切なラストを飾るシーン。初めて見た醜い傷さえ、ぼくには神聖なものとして受け止められた。客席には二匹のmetallic bluefish、切り取られた部屋の真ん中に位置する鮮やかな彩り熱帯の枠から神秘の世界へと誘ってくれる。
 安定した空間に二人の息遣いだけが気をほんのりと揺らしていた。

不意にぼくの腕を取り、手の甲に自分の手の平を重ね合わせて、左手首の傷と直角に刃先を滑らせてゆく。

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