《MUMEI》
振り回されるオジサン
「ふーん、そんな事あったんだ」




佐伯は裕斗が持ち込んでいるピスタチオのパックをパカリと開けた。
「あんまり食うなよな、裕斗はどれだけ残ってるか覚えてんだから。
後で怒られんの嫌だからよー…、あ、ビールまだあるか?」

「あーない、くれ!」
「あいよ」

冷凍庫から瓶ビールを出して佐伯に渡す。佐伯は慣れた手つきで100均ライターで栓を抜いた。

簡単に作った肉とモヤシだけの野菜炒めをコトリとテーブルに置く。

佐伯はニコニコしながら箸をつけだした。

こいつは料理なんかからきし駄目だからこんなモンが一番喜ぶ。



「暫く来ないうちに部屋ん中かわったな、若い男の子の匂いが充満してる」
「そうか?あいつの匂いなんかしてるか〜?裕斗の香水そんなにきつくねーぞ?」
片膝を立てながら一気にグラスを煽る。すると佐伯はビールを注いでくれた。

「違うって、ほら20年も使ってそうなゴミ箱が無くなって新しいの置いてある、変な柄のラグもなくなって代わりにこ洒落たクッションが増えてる、…あちこちオッサン臭さが抜けてるっつーか…、
うん、むささが無くなってきてる」

「今までむさくて悪かったなあ、…確かに裕斗に言われて買い替えたんだよ、…」

ゴミ箱が錆びてるだの今時こんなデザインありえねーとかいちいちうっさかったから買い替えたんだ。


最近服装まで変えられた。俺が気にいって選ぶものは裕斗いわく、ヤ、バ、イ、らしい…。



時々俺の為に服を選んで買ってきてくれる裕斗。




それは決して派手ではなく、俺の好みとは掛け離れてはいるが周りには評判がいいから…
きっとこのての事は裕斗に任せておけば間違いはないんだろうと、それだけはよく俺は分かっている。

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