《MUMEI》
ベビーフェイスの憂鬱
「適当に座ってて。」
男はリビングらしき部屋に雄太を案内し、どこかへ行ってしまった。
(適当にって言われても…)
雄太は辺りを見回した。
床は、紙屑や脱ぎっぱなしの服やらで散らかり放題で、テーブルの上も空になった弁当や、ビールの空き缶でグチャグチャだ。

(散らかしすぎだろ…)
呆れながらも、一番散らかってないソファーに腰掛けた。
「お待たせ。」
数分後、男が戻って来た。両手にはグラスが握られている。
「どうぞ。」
「有難うごさいます。」
手渡されたその中身は、お茶にしては濃い。多分、アイスコーヒーだろうと思う。
「で?昨日電話くれたのはお前なわけ?」
「はい。」
「ふ〜ん。」
男はコーヒーを一口含むと、タバコに火を着けた。

(『ふ〜ん』ってなんだよ?いくら雇う側だからってちょっと態度デカ過ぎじゃね?)
雄太は不満に思ったが、時給の事を考えると言えなかった。それで一獲千金のチャンスが消えるのは避けたかったし、何よりまだこの男に対する恐怖感が拭いきれていない。
「お前、年齢条件見た?」男は煙を吐き出し様雄太を見る。
タバコを吸わない雄太はそれに咳込む。
「ゴホッ!ゲホッ!…ケホッ‥」
「あぁ、悪い。」
「い、いえ…」
「で、どうなの?」
「見ましたよ。だからお電話したんですが。」
バカにされた感じがして、ムッとした。
「じゃあ免許書見せて?」「はい?」
「免許書だよ、年齢確認したいから。」

(疑うなよ!居酒屋じゃあるまいし…)
雄太は仕方なく財布から免許書を取り出すと、男に見せた。
「昭和59年って…今23歳?」
「そうですよ?だから年齢条件満たしてます。」
「マジかよ…」
男はまた頭を掻いた。
「たった2歳下なだけでこんなガキに見えるもんかよ、オイ。」
驚いたと言わんばかりに雄太の顔をまじまじと見る。
(ヤロウ…!!)
さすがにこの反応には雄太もキレた。
ずっとベビーフェイスだと言われてきた彼にとって、それはただのコンプレックスでしかなかったのだ。

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