《MUMEI》
アーケード
高下と目が合った。

いや、それはもう高下ではない。
なぜなら、その首から下を失っていたのだから。

つまり、生首。

「なに?どうしたの?」
ユキナが急に立ち止まったユウゴを覗いた。
「い、いや。あ、おい、絶対横に目をやるなよ」
「……わかった」
ユキナは神妙な顔で頷いた。

もう一度、横を見てみた。
高下は凄まじい形相で口を開き、何かを睨みつけていた。

 ユウゴは慎重に生首の横を通り抜け、そして暗闇と血の臭いが充満する狭い空間から抜け出した。

「よし、手貸せ」
ユキナが出てくるのを助けてやりながら、ユウゴは上を見上げた。
「……うわ。なんだ、これ」
「なにが?」
ようやく気持ち悪い状況から開放されたユキナは、大きく深呼吸しながら立ち上がる。
そして、ユウゴと同じように呟いた。
「なに、これ」

 二人が見上げた先、そこにはうずたかく積まれた瓦礫の山。
よく見ると、瓦礫の形状からそれがアーケードだったことがわかる。

「これって、もしかして商店街が潰れたのか?」
「見た感じ、そうだよね」
「え、なんで?」
「そんなの、知るわけないじゃない」

 ドガンっと音を立てて、どこかの瓦礫が崩れた。
向こうの方からは黒い煙がうっすら見える。
このままでは、いずれここも火事になるだろう。

「……俺たち、よく生きてたな」
「うん。わたしたちってかなり、すごいね」
改めて、ユウゴとユキナは顔を見合わせた。

「まったくだよ。僕も驚きだ」
突然、後ろから声が聞こえ、二人は振り返る。

そこには黒縁眼鏡をかけた、ヒョロリと背の高い男が青白い顔で立っていた。

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