《MUMEI》 渡辺の話「お邪魔しまーす!」 勢いよく祐が扉を開けたが そこには、誰もいなかった。 「もー、祐先輩。沙希先輩に頼んで貸し切りにしたじゃん!」 「ごめーん、何か気分で言っちゃった」 (仲いいな) 俺も含めた他のメンバーは、祐と石川のノリについていけなかった。 結局二人の漫才?は 葛西先輩が祐を 厳が石川を止めるまで続いた。 「…早く食べましょう」 しっかり者の希先輩は、いつの間にか全員分のお茶を用意しており 松本がそれを配ってくれた。 そして、俺達はそれぞれが持ってきた弁当とパンを食べ始めた。 「あの、田中君…」 「ん?」 それまで無言だった渡辺が、意を決したように口を開いた。 「いろいろ、ごめんなさい」 「…何で?」 渡辺が謝る理由がわからなかった。 「携帯の事ならもう、…」 「それだけじゃなくて、あの…」 (何だ?) 俺は箸を止めて、渡辺の言葉を待った。 「あの… 一人暮らしの事とか、…か、家族の…」 (あぁ、だからか) 奈都の母親が何故俺が両親がいなくて、忍の世話になっているのか知っていたのかと、今は冷静に受け止める事が出来た。 前へ |次へ |
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