《MUMEI》
守護神
ライムは一人、広い公園に行った。夏は日が長い。夕方でも明るいが、宿泊する場所に困った。
類い希な夢想家の沢村翔なら、ダイレクトに天使と言っても信じてくれると思ったが、甘かった。
元来は女性に優しい彼が、警戒心の塊になっている。心は荒み、人の話を素直に聞けなくなっているのだ。
「悪魔に蝕まれている…」
ライムは険しい表情で呟いた。
やがて夜になった。暗い公園で美少女が一人。これは目立つ。ライムは少し焦った。
能力を人に見られてはいけない。消えたり、忽然と現れたり。つまり瞬間移動を人間に目撃されては危ない。
日本は警察やマスコミが発達しているから、これらに目をつけられたら仕事がやりにくい。
赤い光。
体育館の下の駐車場に、赤く光るものが見えた。よせばいいのにライムは駐車場へ行った。
高校生らしき二人の少年がタバコを吸っている。
「こらあ!」
「わあ!」
ライムは少年二人に歩み寄る。
「地球って未成年者はタバコ吸っちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「地球?」
「あああ、間違えた、日本よ日本」
少年はライムを直視した。純白の衣装に身を包んだ可憐なプリティーガール。警察官には見えない。
「お姉さん補導?」
「違うわ。通りすがりの者よ」
「わかった。学校の先生だ」
「違うって」
ライムが少年と話していると、背後から声がした。
「おーい、どうしたんだよ」
ライムは振り向くと、顔を赤く染めた。不良少年が20人くらいゾロゾロと歩いて来たからだ。
「ヤバいかも…」
二人の少年もいきなり態度が大きくなる。
「何か、高校生はタバコ吸っちゃいけないとか言ってんの」
皆はライムの姿を見た。
「かわいい!」
「超かわいいじゃん」
ライムは口を半開きにして慌てている様子。先頭の太った男はタバコを出して挑発した。
「お姉さん。俺も高校生なんだけど」
そう言うと、ライムの目の前で思いきり吸った。
ライムはムッとする。
「好きにすれば」
行こうとしたがぐるりと囲まれてしまった。まずい展開だ。
「ちょっと待って」
両手を出すライム。少年たちは淫らな笑みを浮かべた。
「かわいい、ビビってる」
「ビビるに決まってるでしょ。こんな大勢に囲まれたら」
「かわいい!」
本気で怯えるライムを見て、皆興奮してしまった。
「どうするこの子?」
「やっちゃう?」
「バカ、やっちゃかわいそうだろ。何も悪いことしてないんだから」
皆はゲラゲラ笑った。ライムは唇を結ぶ。
(どうしよう…)
少年たちは面白がる。
「隙あり!」
「ちょっと!」
体を四方八方から触られる。
「タッチ」
「やめなさいよ!」ライムは怒った。
「でもよう。このお姉さん、いい度胸してると思わねえ?」
「思う思う」
「普通怖くて泣いてるよな」
ライムは敵意のない顔で見つめた。
「泣いたら許してくれるの?」
「お姉さんかわいいから簡単には逃がさないよ」
ライムは心底困った。
「ところで公園で何してたんだよ」
「別に」
「名前何て言うの?」
「何だっていいでしょ」
「年いくつ?」
「レディに年聞くか普通」
少年たちは少し焦った。度胸が良すぎる。もしかして囮捜査か。何人かは同じことを思い、キョロキョロ辺りを見渡した。
「おまえ刑事じゃねえだろうな?」
「違うよ」
「じゃあ仕事は?」
「答える必要ない」
「そういう生意気言ってると、この場で裸にしちゃうよ」
「わかった、やめて」
「かわいい!」
腕を掴まれた。まずい。服も掴まれる。ライムは振り払うが人数が多すぎる。
「あ、強飛!」
ライムが明るい顔で言った。
「きょーひ?」
少年たちはライムの目線の先を見る。そこには、馬がいた。
「何だあれ?」
少年たちは怯んだ。公園の駐車場に馬。馬上には戦国時代を思わせる鎧兜姿の巨漢。しかも2メートルはある大矛を握っているではないか。
「嘘だろ?」
皆蒼白だ。

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