《MUMEI》
初仕事
「さてと、俺は取り敢えずシャワー浴びてくるわ。いい加減ベトベトしてきた。」
さっき雄太が零してしまったコーヒーのせいだ。
「…すいませんでした。その…俺、ついカッとなっちゃって…」
今更ながら反省。
「いや、それよりもお前名前は?」
「あ…」
初対面にも関わらず、二人はまだ自己紹介をしていなかった。
「林です。林雄太といいます。」
「俺は中川一樹。」
『よっこらしょ』といった感じで立ち上がると、ポンと雄太の肩を叩いた。
「さて、雄太君。君の初仕事だが…」
中川はおどけた口調で言う。
「…何でしょう?」
“初仕事”と言う響きに何だかまた緊張する。
中川はニヤリとして部屋を見回した。
(もしかして…)
「この部屋の掃除を頼むとしよう!」
(やっぱり〜)
「返事は?」
「はい…」
不満一杯だが、仕事なら仕方ない。なんせ時給が懸かっている。
「よし。じゃあ俺はシャワー浴びてくるから。」
中川はそういうと浴室へ向かった。
(面倒くせぇなぁ…)
「あ!手ぇ抜くなよ。抜いたら時給減らすぜ?」
「分かってますよ…」
「ならいい。あとゴミ袋とかはその中にあるから。」中川は部屋の隅にある戸棚を指差した。
「はい。」
「ちゃんと分別しろよ。管理人うるさいから。」
「…はい。」
もう溜め息か返事が区別がつかない声を出す。
「それともう一つ…」
「まだ何かあるんですかぁ?」
いちいち小姑みたいで、いい加減ウンザリしてきた。
「さっきは悪かったな。ガキ扱いして。」
「い、いえ…」
中川の思いもよらない謝罪の言葉に、雄太はビックリした。
(そんな悪い人じゃないのかも…)
「じゃあ頼んます!」
中川はそう言い残すと部屋を出て行った。
「はいっ!」
中川の背中に向かって元気良く返事する雄太。
俄然やる気が出てきた。
(俺ってほんと単純。)
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