《MUMEI》

「こんにちわあ、弟がお世話になってますぅ。姉の棗ですぅ。」

いつもの倍、声色が高くて虫酸が走る。


「わー随分、綺麗なおねーさんだね。モデルさん?」

棗は179センチもある。それで髪を巻いて1時間かけて完全に塗装し、膝上のスカートから自慢の脚をひけらかすので、完全なる肉食系だ。
友人的には『調教師』らしい。


「ああ、棗は……」

言いかけて、棗にヒールで爪先を踏ん付けられて止めた。


「ダンスの講師ですの。」


「だからスタイルいいんですねー。」

高遠、あっさり納得した。


「学校のお友達かしら。」

返答だけなのに頭を使わされる。


「さっき意気投合したんです。」

馬鹿、正直に言うなややこしい。


「…………どこかで」

やば、棗が気付いた。


「…………俺も」

高遠と棗が記憶を手繰るように見つめ合う。



「まさか……光ちゃん?」


「なっちゃん?」


「二人共、知り合い?」


「バカ、あんたの兄よ。」

……父さんには本妻が居て子供も居るのは知っていたが。
母さんは話したくないようで当然、棗も知らないとばかり思っていた。
父さんも確かに進んで家の外や本妻の話はしない。我が家の話ばかりだった。


「じゃあ、父さんのもう一人の子供って……」


「俺ってことになるよね。」

高遠は感心はしているが、決して驚いてはなかった。俺はといえば……嗚呼、眩暈が……。

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