《MUMEI》

「ゆ、裕斗お!」





佐伯の頭を押し除けながらリビングの入口を見ると…




裕斗が無表情でつっ立っていた。






「脅かすかと思ってそっと入って来たんだよ」




「な、そっか…、あのよ、誤解だからな?な、佐伯!俺たちゃーべつに何も、なあ?…こら!そっぽむくなっ!」



佐伯はわざとらしくテレビの方を向き、エヘヘと笑いながら芸人のギャグに見入りだした。


「こら佐伯っ!」



「黙れよ秀幸!ムーディの新曲黙って聞かせろよ!」




「だって〜!ゆ、…ゆうちゃあん…誤解だか……」





更に裕斗に鬼の形相で睨まれて、俺は大人しくなった。









二人は競い合うように笑いながらピスタチオを食い、ビールをガバガバ飲み干す。





俺は冷凍庫とテーブルへの往復三昧…。



「裕斗君、このピスタチオちょっと違うね、どこで売ってんの?、あ、秀幸チーズかなんかないか?」





「あ〜、それ携帯のネット通販です!
ちょっと高いけど塩が違うからおいしいんですよねー、あ、秀幸俺タマゴ焼き食いたい!」



「……はいよ、はいよ…」






なんか前から薄々感じてたんだ。



裕斗の奴どっか佐伯に似ている。




いや、段々似てきてるんだ、図々しいとことかふてぶてしいところとか!!





俺はチーズを冷凍庫から出し佐伯にぶん投げて、次にタマゴをキッチンに出す。





でも、親友の佐伯と裕斗が仲良く?
してる姿は正直嬉しい。



それに裕斗の親父さんと佐伯が男女なら結婚している様な仲だし。




その辺の絡みもあるからこんな機会にちょっとでも歩み寄って貰えれば俺としても嬉しかったりする。




裕斗と病院で会った時から今日で10日目。




メールを数回交わしたっきりで今久しぶりに会えた。




裕斗は毎日毎日仕事の合間みちゃ病院行って、夜も泊まり込んでいるらしい。









「ほら焼けた」




「わ〜!大根おろしつきやったっ!」




「へー、タマゴ焼きに大根おろしねぇ、秀ちゃん裕斗君にはまめだねえ、俺にはモヤシだけ肉野菜炒めだったのに」


「うるせーよ、美味いって食ってたの何処のどいつだっちゅーんだ」



「アハハ〜オレ〜、納税(トイレ)してきま〜す!」




佐伯は真っ赤な顔をしながらふらふらと立ち上がりトイレに行った。




裕斗は嬉しそうにタマゴ焼きにかじりつきだす。








「ピアス全然変えてねーの?珍しいな…」
裕斗の横髪に触れながらピアスを見る。


アルコールでいくらか色づきだした耳、

思わずそこに唇を充てる。

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