《MUMEI》
松木(まつき)
「ふぅ…」


俺は、ため息をつきながら、発声練習の為に部室から、体育館へ移動していた。


「大丈夫ですか? 先輩」

「…あぁ」


(珍しいな)


廊下を歩いている途中で声をかけてきたのは、普段無口な後輩の松木だった。


松木は委員会も同じで、丁度俺と仲のいい松本と似た苗字だったので


珍しく、そんなにやりとりも無いのに俺は名前を覚えていた。


「重かったら、送ればいいですよ」

「え?」

「土産」


(あぁ)


『頼まれた土産を宅急便で送れば楽だ』


そう、松木は伝えたかったようだ。


(でも、買うの最終日だし)


修学旅行は三泊四日で、●キャラメルで有名な牧場には、四日目に行く事になっていた。


「先輩?」

「あぁ、大丈夫。心配してくれてありがとう」

「…いえ」


そこで、会話は途切れた。


(あ…)


いつも通り、ステージに上がると、体育館で練習しているバスケ部の


奈都と


不意に目が合った。


お互い、気まずくてすぐに目をそらしたので、それはほんの一瞬だった。


その様子を、頼と厳、それに


松木が見ていた。

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