《MUMEI》

ここ……超、お金持ち学校だ。
門構えから俺みたいな平凡な人間とは無縁だと思い知らされる。


「……二郎、七生に会ってみたくない?」

耳元から、乙矢という名の悪魔の囁きが……!


「会いたく、ないっ……どうしたらいいか分からないし。」


「俺と、一緒ならどう?」

アクマー!聖人みたいに笑うな!


「駄目だって、言ってるじゃないか!」

涙目になる。


「あら、二郎さん。」

瞳子さんだ……。
きっと、七生のこと迎えに来たんだ。
相変わらず、上品な御召し物に相応しい物腰の柔らかさだ。


「……初めまして。二郎がお世話になってます。」

乙矢が進んで瞳子さんの前に立ち塞がる。
俺は二郎の後ろで守られている気がした。


「こんにちは、二郎さんのお兄様?」

瞳子さんが突拍子もない言葉を投げかけたので思わず乙矢と顔を見合わせてしまう。
瞳子さんのお付きの運転手が睨みをきかせていたのが怖かった。


「俺の幼なじみで、美作乙矢っていいます。」

慌てて補足した。


「二郎と仲良くして下さっているようで。」


「私が一方的に押しかけているようなもので迷惑ばかりかけています。」


「いや、瞳子さんはそんなんじゃないです。」

否定しながら肯定してしまう。逃げ出したい、しかし乙矢は逃がしてくれない、片手をがっちり結び付けている。


「父が七生さんと桜介君を誘って私の家で晩餐会なのです。お二人もご一緒に如何ですか?」

……助けて、と誰かに向かって叫びたくなる。


「是非。」

爽やかに乙矢が微笑む。


「俺は……イッ、ハイ!」

乙矢って握力強い。

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