《MUMEI》
セクシーエンジェル
翔はライムの楽しそうな顔に見とれた。
普通の女の子は、初対面の男の部屋に泊まろうとは思わない。
「ライムは人間より強いのか?」
「あたしを腕ずくでどうにかしようと思っているの?」
「まさか」
ライムは押入から勝手に布団を出し、四畳半と六畳の部屋にそれぞれ敷いた。
「2つあって良かった」
「人間は寝る前に入浴をするんだ」
「どうぞ」
「レディファーストだ。ライムからどうぞ」
「じゃあシャワーだけ浴びてくるね」
翔は、洗濯したバスタオルとタオルを渡した。
「ありがとう」
「ライム」
「何?」
「変なことしないからバスタオル一枚で出てきな」
ライムは笑みを浮かべる。
「いいよ」
シャワーの音が聞こえる。謎の美少女が今裸でバスルームにいる。
こんなエキサイティングな夜になるとは、夢にも思わなかった。
ライムが出てきた。バスタオル姿ではなくグリーンのパジャマを着て出てきた。
「どうぞ」
「なぜパジャマを?」
「男性の前でバスタオル一枚にはならないでしょ普通」
翔は仕方ないという顔でタオルを持つと、バスルームへ向かった。
「パジャマ姿、かわいいよ」
「ありがとう」
ライムはカラーボックスを見た。翔の本棚だ。
「三国志、ユゴー、トルストイ、ドストエフスキー、デュマ、司馬遼太郎、ハードボイルド、推理小説。ふーん」
翔が出てきた。裸だ。ボクサーのようなスリムで逞しいボディ。
「裸で寝るの?」
「人間はみんな裸で寝る。女もパジャマなんか着ないよ」
「嘘よ絶対」ライムはケラケラ笑った。
「嘘じゃない。地球に来たら人間らしくしてもらわないと」
「あたしを天使と認めてくれたの?」
「まだ半信半疑だ」
翔はライムの体を遠慮なく見た。
「裸は嘘だけど、夏は女の子は、パジャマの上だけ着て寝るんだ」
「そうなの?」
ライムは何の疑いもなく下を脱いだ。しなやかな脚がたまらなく魅惑的だ。
ライムは翔の危ない視線から逃れるために、素早く布団に潜り込んだ。
「ふすま閉めていい?」
「もう少し話していたい」
「わかった」
「マッサージしてあげようかライム?」
「その手には乗らないわよ」
ライムが睨む。しかし翔は続けた。
「まじめなマッサージだよ」
「お断りします」
「信用ないんだな」
崇高な宇宙論から一気にレベルが下がっている。
「信用しているから寝泊まりできるんでしょ」
「じゃあ、朝まで無事だったらご褒美をくれるか?」
ライムは一瞬考えた。
「面白いね翔君。明日は早いから寝よう」
「何かあるのか?」
「早朝からボクサーなみの猛特訓よ。あたしがコーチしてあげる」
ライムは横になった。
「お休みなさい」
「おやすみ」
朝。
「起きろ!」
「え?」
翔は眠そうな目でライムを見た。夢ではなかった。男のロマン・パジャマの上だけスタイルのセクシーエンジェルは、ちゃんと目の前にいる。
「今何時?」
「6時よ」
「冗談」
二度寝しようとする翔の掛布団を剥ぐ。
「何をする?」
「朝に勝てない者は夢を掴むこともできないわ。朝が勝負の分かれ目だから」
「あと10分」
「ダメ。朝を制する者は世界を制す。ボクサーが早朝ロードワークをするように、作家も朝から文章トレーニングよ」
返答がない。寝ている。ライムは翔の脇の下をくすぐった。
「コチョコチョコチョコチョ」
「何してる!」
翔はすくい投げでライムを押し倒すと、上に乗る。
「くすぐりっていうのは、こうやるんだ」
「ぎゃははははは、やめて…」
脇をくすぐられて、ライムは顔が真っ赤だ。
「天使ならオレを空中にでも浮かせればいい」
「無理無理、許して、降参」
本当に苦しそうなのでくすぐりをやめた。
ライムの息が荒い。翔はエキサイトしてしまった。
「ライム」
「どいて。あたしに変なことしようと思ってるの?」
「まさか」
翔はどくと、ライムの手を引いて起こした。

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