《MUMEI》

絹を引き裂く女の叫びが闇夜に谺する……
林太郎は居なくなった初江の穴を埋めるべく夜も品出しをする為に蔵から出入りしていた。
深夜、売れないがらくたは、雑木林に棄てに行く。

狐火が現れる、首の吊られた地縛霊が出る等、いわくつきの処だ。
女の絶叫が聞こえたとしてもおかしくない。

其の日はつまり必然的なおかしさだった。
首の吊られた霊では無く、首を絞められた人間が見える。
加害者は大男で、林太郎のような若造がやって来た処で返り討ちに遭うだけだ。

そこで林太郎はがらくたから棒きれと低音が出ない笛を持ち出して警官の真似事をした。
暗闇ならば僅かな明かりで人の影しか映らない。

「そこで何をしている。」

尤もらしい台詞を吐いてやると忽ち大男は逃げ出して行く。
林太郎の差し出した手を女は払い退け、肩で息をしながら恨めしげに睨みつけられた。

賎しい手で触るなと、云う意志の表れだ。
一人で歩こうとしているが足元は頼りなげにふらついている、林太郎は彼女の肩を抱く。
そして、化粧や外見で気付け無かったのだが女は初江だと理解した。彼女にとっては忌ま忌ましい過去の産物であろう林太郎は拒絶の対象でしかないのだ。

「どうしたのですか。」

本物がやってきた。


「あの男が……首を」

林太郎へと矛先が向けられ、がらくたを放り出して逃げ出す。
流石に向こうも強く林太郎を捕まえようとはしないだろう。何せ、証拠も無ければ彼女に危害を与える理由も無いのだから。




暫くして、舶来品の面を被る怪人が現れる。
林太郎は識らないが、怪人は白い面で顔を覆い隠し首を絞め歩くのである。
しかし、初江以降の被害は無くなり、噂も何時しか消えてしまった。

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