《MUMEI》
黄金の戦士
社長が出て来た。ほかに客はいない。数人の社員が翔に近づく。皆外見はどう見てもチンピラだ。
「どうぞおすわりください」
翔はゆっくりイスにすわる。毅然とした態度。半身に構える社員。
社長は穏やかな口調で聞いた。
「さっき全額返済と言いましたが」
「はい」
翔は社長に15万円を渡した。社長はその場で一枚一枚数えると、社員に手渡す。
「確かにお預かりしました」
すぐに受領書が出た。
「沢村さん。これで限度額が増えましたよ。きょう20万までお貸しできますけど」
「いえ。きょうはいいです」
社長は苦笑する。
「あって損はないと思います。急な出費のときに、貯金が20万円くらいあると安心ですよ」
「結構です。ありがとうございます」
翔は立ち上がった。
貸した金を返せと脅すことはできるが、借りろと恫喝することはできない。
「またのご来店をお待ちしています」
ドスの効いた声を背中に受けながら、翔は、二度と来ないと固く心に誓った。
ビルから出た。ライムが心配そうな顔で待っていた。
「ライム…」
翔は早足で来る。ライムは声をかけた。
「翔君どうだった…あっ」
抱きしめる。一瞬驚いたが、ライムは抵抗しない。
「ライム」
「大丈夫だった?」
「ありがとう。君は、本当に、天使だったんだな」
「やっと信じてくれたの?」
「信じるよ」
二人は外食をしてからアパートへ帰った。
布団を敷くと、レディファーストでライムが先にシャワーを浴びる。
そのあと翔が入った。出てくるとライムはすでに布団の中に潜り込んで寝ている。
「早いよ」
「夜遅くなるとほら、朝が辛いから」
ライムはさっさと寝てしまった。
「ふう…」
仕方ない。翔も寝るしかない。まだ目は冴えていたが、横になった。
深い眠りに落ちていく。
気分がいい。
魔法にかけられたように安眠できそうだ。
ライムの仕業かもしれない。
夢。
それとも、うつつ。夢と現実の狭間?
意識がある。深く、深く、体がどこかへ行く感じがする。
地球が見える。
青く美しい星。
地球が見えるということは、ここは宇宙か?
銀河を旅している。やはり夢か。ゆっくり体が移動している割には、銀河がもう遠くに見える。
確か何万光年とかではなかったか。銀河の端から端まで。
まあいい。オレは科学が苦手なんだ。宇宙誕生から137億年と言われても、ピンと来ない。
算出不可能な長遠の昔だ。
漆黒の闇。真っ暗な宇宙空間。無音。何も見えない。
光。
光が見える。眩しい。昼間のように明るい。ここはどこだ?
山が見える。山に衆生が集い来たる。周囲には天女が舞い踊り、先ほどから歓喜の合唱が続いている。
宇宙の中心?
清らかで美しく、爽やかな香りに満ちた華々が、雨のように降りしきる。
「あっ」
山の上。魅力的な天使が微笑みを浮かべている。
「ライム…」
ライムの傍らには鬼神のような形相の巨漢。
守護神か。
どうしたことか。凄い振動。大地が割れた。皆驚いている。守護神も、ライムを始め天使たちも驚きの表情。
前代未聞のことなのか。
やがて割れた大地から、金色に輝く戦士が、陸続と踊り出てきた。
凄い躍動感。
文字通り踊りながら登場してくる黄金の戦士たち。
次々と。十人、百人、千人、万人。
黄金の戦士が踊り出る。
「あ!」
まさか。
黄金の戦士の中に、自分を発見した。ライムと公園のベンチで初めて会ったとき。
思い出した。
彼女は言った。
「有名人だから」
有名人だから知っていた。
ところで、黄金の戦士とは、何だ?
「……」
静かに、静かに、映像が消えていく。
天井。
目が覚めた。やはり夢だったのか。不思議な夢だった。
「翔君」
翔は寝たまま横を見る。ライムが正座していた。
「ライム」
「おはよう翔君」
天使の微笑み。
「今の夢は、君が見せたのか?」
「ええ」
あっさり答えた。
戦慄の朝だ。

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