《MUMEI》
募る不安
車内はラジオだけが流れていた。


美緒さんは『親しい』ではなく『親しかった』と言った。


真っ黒い服


狭い車内


車の芳香剤とは違う


運転席の美緒さんから微かにする


あの日の、忍と同じ臭い


「窓、開けていいですか?」

「…どうぞ」


北海道は、俺達が住んでいる地域よりほんの少し肌寒い。


なのに


俺は、汗を


冷や汗を、かいていた。


(嫌な予感がする…)


俺は、目的地に着く頃にはうつ向いていた。


(嫌だ、こんなの…)


美緒さんの車を降りる頃には


周りは真っ黒な集団ばかりで


男は全員忍と同じ服装をしていた。


俺は、持っていた荷物を


春日さんへのプレゼントをギュッと握りしめながら、美緒さんの後に続き


一軒の家に入った。


その玄関には、何故か白い提灯が飾ってあり


入った途端にますます強くなる、嫌な臭いに俺は顔をしかめた。


「おかえりなさい、美緒さん」


話しかけてきたのは、知らない女性だった。


「ただいま。葉月は?」

「それが…」


女性の態度に、美緒さんはため息をついて、ある部屋に向かった。

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