《MUMEI》



「くそ…くそ…」





俺はビールをぐいっと煽って手酌でグラスにまた追加する。




裕斗に会いたくて寂しくて、甘えたかった俺は酔っ払ってるせいか、佐伯の存在なんかどっかにやっちゃってしまった訳で…。





「なんかも〜可愛いくて仕方がないって感じ?
お前あの子にすっかりべったべただなあ!」




「うるせーよ!もう代行呼ぶから帰れ!俺はあいつと大事な話があるんだ!」





俺は最後の一粒のピスタチオを口内にほうり込む。





てかこれ、実は今始めて食った。




「…くそ、美味い…、お前らで全部食いやがって…」



「まー俺も馬に蹴られて死にたくねーからな、今日のところは素直に帰ってやるよ


ヒヒヒ…その代わり今度会った時は一発やらせろな?パパのおっぱい男ッ!」




「…ヤらせっかよ馬鹿野郎ッ!


クソ〜あ〜もう失敗した〜!めちゃめちゃ恥ずかしいよ〜ッ!!」


「ハハハハッ!一生ネタにしてやる!」










「裕斗君!俺帰るからあ!……、オ〜!なかなか綺麗な肌してんねえ!」



「ゴルァッ!覗くなッ!金取るぞてめえッ!」



佐伯の首根っこを掴んで慌てて浴室の扉を閉める。

普通!普通いきなり開けるか??



ガチャリ!


「ウアッ!なっ!裕ちゃあんっ!」



「え?帰っちゃうんですか?てっきり泊まりかと思ってたのに…」



髪が泡だらけの全裸の裕斗。



綺麗に浮き上がる鎖骨に思わずしゃぶりつきたくなる衝動と闘いながら俺は浴室の扉を再び閉めた。

「何だよ秀幸ッ!」



「ダメだ!見せつけんなっ!佐伯にだけはっ!ぜ〜ったい駄目っ!」


「フフッ、全く秀幸は〜…、じゃあな〜、裕斗君、今度は二人で飲もうな〜」




佐伯はぽんぽんと俺の肩を叩くとマンションを千鳥足で出て行った。






「佐伯さんけっこう飲んでたのに何で帰すんだよ〜」



Tシャツにショートパンツのいで立ちで裕斗は髪をドライヤーで乾かし出す。



俺は裕斗からドライヤーを取りあげ、濡れた髪に触れた。

「あいつが帰るって言ったんだよ、てか俺達はそんな気い使う仲じゃねーんだから気にすんな」


指で髪をすきながら乾かす。




襟足の毛が少し跳ねているのはパーマでもあててんのかと思っていたら実はくせっ毛だった。



俺のちりちりぐちゃぐちゃなくせっ毛と比べりゃー何でもねー程度だが。



「そーっすね、キスする仲だし」


「だ〜か〜らぁ、あれはあいつがいきなりっ!」

「ふふっ、泣いてて可愛いかった。
もし俺が来なかったら食われてたのかな〜?」

「あのなあ!食われて欲しかったのかよ!」


「やだ」


「だろう」



「秀幸の始めては俺じゃなきゃやだもん」


「………」


「ふふっ!」

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