《MUMEI》 ぬけがら「ただいま、葉月」 「…」 返事は、無かった。 (ここ、見たことある…) そこは、春日さんの寝室ではなく、泊まり込みで世話する時に使う小さな和室で 何度か葉月さんのブログに載っていたから、見覚えがあった。 「祐也君連れてきたわよ」 「こんにちは」 「…」 あぐらをかいて、うつ向いている葉月さんの表情は、俺にはわからなかった。 ただ 葉月さんは、ごく普通の格好をしていた。 それだけが ほんの少し、救いだった。 が それは、一瞬で。 「まだ、着替えないの?」 そう言った美緒さんの視線の先に 葉月さん用の、黒い服 喪服 が見えた時 バサッ! 俺はとうとう持っていた物を落としてしまった。 その音に反応して、反射的に顔を上げた葉月さんの目は虚ろで ぬけがらのようで 「しっかりしてよ…っ! あなたは キヨさんが、指名した 喪主 でしょう! ちゃんと…! ちゃんと、仕切りなさいよ!」 美緒さんは泣きながら、叫んだ。 (やっぱり、そうなのか) 俺の目にも、涙が浮かび始めていた。 前へ |次へ |
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