《MUMEI》
空の旅
右腕だけで全体重を支えているはずなのにあまり負荷がかかっていない。自分にも風の術式が付与されているのだろうか・・
眼下に広がる街には明かりが灯り、幻想的な美しさに満ちていた。
「綺麗でしょ?へへ〜実はお気に入りなんだ。」
眼下に広がる街を見ながら飛ぶ。嬉しそうに、楽しそうに飛ぶ。
「すごい・・」
ただ一言、そう言うのがやっとだった。映像として上空からの街は見たことは何度かあった。だが、実際に見るものは、圧倒的で、ただぼんやりと見ることしかできなかった。
「ふふふ。残念だけど空の旅はここまで。下りるよ。」
バサリ
と空を打つ音が聞こえた。
ゆっくりと降り立った場所は玉華の前。
「それじゃ。また明日かな?」
軽い口調でそう言うと、バイバイと手を振る。
「ありがとうございました。」
手を振り返しながら礼を言う。
バサリ
と空を叩く音が聞こえた。彩詩の体が空に浮かび、飛び去っていく。
月光に金髪が煌き、碧色の翼が大きく空を打つ。空には欠けた月が浮かび、静かに街を照らしていた。幻想のような・・神話のような・・そんな光景。
「・・・・・」
しばらく見惚れていた。宿に入ったのは10分ほど経ってからだった。
〔宿屋、玉華〕
「おう、お帰り。ずいぶんと遅かったな。」
宿に入るとすぐに店主が声をかけてきた。
「色々あって。」
笑いながら返事をする。
「まぁ初日だからな。で、飯はどうする?」
「今日は外で食べて来たので。朝ご飯を楽しみにしときます。」
そう答え、自室へと戻る。
狩月の言葉に少し残念そうにしながらも、
「お休み。朝飯楽しみにしてろよな!」

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