《MUMEI》
名優
ライムは話を続けた。
「黄金の戦士たちの誓願は、我々とはまるで違っていた。ただの決意表明ではなく、大胆にして緻密な作戦を語ったわ。そして、それは相当な勇気がなければできない作戦だった」
「どんな作戦だ?」
「地球に人間として生まれ、人間として生き、最後は人間として死んでいく。地球以外のあらゆる星々でも、このやり方で悪魔を退散させてきた」
「ちょっと待て」
翔は頭の中を整理した。思考がついて行かない。
「地球以外に地球人のような知的生物はいるのか?」
「科学者の多くは、いると確信しているけど、科学者や天文学者の場合、証拠がないことは語れない」
「答えになってないぞライム」
「目の前に答えがいるじゃない」
「そっか」
ライムは熱い眼差しで語る。
「黄金の戦士は、地球も同じ作戦で救うと誓願を立てたわ。一生の脚本を描き、生命にインプットして、地球に誕生する。問題は、赤ちゃんとして生まれたとき、完全に過去の記憶はないってこと」
「科学的だ」
翔は思い出したようにペンを走らせる。
「過去の記憶がないからこそ、痛みをもろに感じ、苦しみを体験し、悲哀を経験し、挫折も味わう。でないと人の気持ちがわからないから。わからなければ、苦悩に沈む人を励ますことも、救うこともできない」
翔は、ライムを震える目で見つめた。
「ライム。君はファミレスで、このことを言おうとしたのか。わざとだって」
「そうよ。それなのに怒って帰っちゃうんだもん」
「ごめん」
素直に謝られると弱い。ライムは優しく微笑む。
「黄金の戦士は、あくまでも人間として生きる。だから完全無欠である必要はない。病気もする。恋もする。失恋もする。結婚もする。離婚もする。不倫もする。全くそのまま、ありのままの人間だからこそ、人間を救うことができるの」
強い必要はない。弱さがあってもいい。人間だから。
翔は新しい革命論だと感じた。
「朝に弱くてもいいんだ?」
「ダメよ」
「欲望に負けても仕方ない」
「仕方あるわ」
ライムは話の先を急いだ。
「最後も、人間として死んでいく。実は、私は黄金の戦士だったのだ、なんて言って天に上って行くような、そんなマンガの話ではないの。非科学的なことであれば、普遍性を持続できない」
翔は興奮していた。
「翔君。黄金の戦士は、いわば名優よ。人生という劇で、大舞台で、体を張ってメッセージを伝える。自分の一生を通して、一人でも多くの人に、メッセージを残す」
外は曇り空。朝から雨が降ったりやんだりしている。
「黄金の戦士は、一生かかって映画をつくっているとも言えるわ。監督であり、主役、演出、脚本と一人何役もこなす大芸術家」
ライムの話を聞きながら、翔の夢は広がり、想像の翼がはばたく。
「それぞれに役目があるの。あたしの役目は、黄金の戦士を守ることよ」
「黄金の戦士は、悪魔に狙われているのか?」
「そうよ。自分が何者か自覚がない生身の人間だから、悪魔に攻撃されたらほとんどダメ。攻略法を完全に掴んでいる」
「手ごわいな」
翔が呟く。ライムはしっとりとした声で囁いた。
「そこで翔君の出番よ」
「遠慮しとくよ」
「悪魔の攻略法を暴く。からくりがわかれば騙されにくいでしょ」
「奴らはどんな攻略法を?」
翔は自然に声が小さくなる。ライムは普通に話した。
「いちばん身近な人の身に悪魔が入り、心外な言葉を浴びせて心を侵害する。主に親、子ども、夫、妻、兄弟姉妹、恋人」
「残酷だな」
「それが悪魔よ。だから悪魔は壊滅させるしかない。激しい怒りは恐怖心を消すわ。悪魔は絶対に許さないという炎のような激怒の心で闘うのよ」
「過激だな。天使のイメージが変わる」
「天の使いよ。悪いけど大闘士よ」
翔は渋い顔をした。
「攻略法か。オレは天涯孤独だから、ライムに心外なこと言われなきゃ大丈夫だよ」
ライムは、上目遣いで翔を見た。

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