《MUMEI》
タイムリミット
(そういえば…)



葉月さんが撮ったという春日さんの写真の前で、線香を立てながら、ふと思った。


「葉月さんは、この春日さんを見たんですか?」


この、幸せそうな顔の春日さんを


「それが…棺に入る前の状態はチラッと見たけど、ちゃんと、こうやって綺麗にしてもらったキヨさんはまだ見てないの。

もう、時間が…」

「すみません、そろそろよろしいですか?」


(何だ?)


事務的な、冷たい口調の黒いスーツの男性が現れた。


その後ろには、やはり悲しみを感じられない無表情の男女が見えた。


「もう少し、待っていただけませんか?
まだキヨさんの顔を見ていない者がいるので…」


必死な様子で頼む美緒さんを見て、男は時計を確認し


「…十五分だけですよ」


ため息をつきながら、告げた。


男と後ろにいた男女は葬儀屋で


これから、春日さんを火葬場に連れて行くらしい。


もちろん、そこでも最後に春日さんの顔を見れるが


美緒さんは、春日さんがこの家にいる間に、春日さんの顔を葉月さんに見て欲しかったのだ。


(確かに、見なきゃもったいないよな)


俺は、葉月さんを説得する美緒さんに付いて行った。

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