《MUMEI》
説得
俺と葉月さんの登場に、周囲はもちろん唖然としていたが


「俺はね、葉月さん」


俺は、葉月さんをゆっくりと降ろしながら語り始めた。


「ちゃんと、今の春日さんを見た方がいいと思います」


…座った葉月さんが逃げないように、隣に座り、腕を掴んだ。


「俺、昔この世で一番愛していた人を亡くしました」


掴んだ腕が、ピクリと震えた。


「本当に、突然、その人は死にました」


いつの間にか、騒がしかった周りも静かになっていたが


俺は、構わず続けた。


「俺が、その人が死んだのを知ったのは、三日後です」

「えっ…」


葉月さんが


今日、初めてちゃんと俺を見た。


「誰よりも、側にいたのに、誰よりも、愛していたのに、俺は何も知らなかった」


震えそうになる、声と体を抑える為に、俺は深呼吸した。


「死顔も見れなかった。葬式も出れなかった。未だに、墓参りも行けない。

辛いからじゃなくて…出来ない。

だから、俺、今日は春日さんに会えて嬉しかったです」


最期の時には間に合わなかったけれど


「すごく、いい顔してますよ。今、見ないと後悔しますよ」

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