《MUMEI》
最期の撮影
こんな席で笑うのは、普通はいけないだろうが、俺は葉月さんに向かって微笑んだ。


(本当に、羨ましいんだよ、俺は)


春日さんに、信頼され、喪主を任された葉月さんが。


(忍にも嫉妬したし)


旦那様が死ぬ直前まで側にいて


旦那様の葬儀を仕切った忍が、俺は羨ましかった。


『旦那様が最期に選ぶのは、信頼してる忍なんだ』


そう考えると辛くて仕方なかった。


(未だに、考えると辛いし)


「本当だ」

「…え?」


つい自分の世界に入っていた俺は、葉月さんの言葉で戻ってきた。


「綺麗だなぁ」


葉月さんは、ボロボロ泣きながら、春日さんの顔を


棺のふたの小さな窓を開けて見ていた。


そして


「美緒」


呼びながら、右手を上げた


(? 何だ?)


上げた右手を、葉月さんが開いたり閉じたりしていた。


「…本気?」


美緒さんは、その合図がわかったようだが、戸惑っていた。


「…早く」


真剣な口調の葉月さんに、美緒さんが渡したのは


葉月さんのカメラで


葉月さんは、春日さんに向かってシャッターを切った。

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