《MUMEI》 英雄の子ワアアアアァァッ……!! 辺りは歓声に包まれる。彼の洗練された無駄の無い剣技はそれほどまでに美しい。彼が倒した暴漢など、ただの引き立て役に過ぎなかった。 アイク! アイク! アイク! アイク! …… 彼の名はアイク・ヴァルト。整った顔立ちと明晰な頭脳、類い希な剣の腕を持った天才。だが、それだけではここまでの大歓声を受ける理由にはならない。その理由とは 「いやーさすが英雄シグルド様の御子息であらせられる御方だ! いつ見ても惚れ惚れする戦いっぷりよ!」 英雄シグルド かつて多くの仲間を率いて異界からの侵略者たちを打ち倒し、世界を救った英雄。 アイクはそのシグルドの息子なのだ。だから一々こうやって騒がれる。 「いいえ、皆さん。私など父に比ぶれば幼子同然です。ですがそのような未熟な身でも皆さんのお役に立てることを光栄に思います。」 アイクの人気が高く保たれているのには、この謙虚さが一役買っている。人格者の子が人格者とは限らないがその点アイクは問題無いということだ。 アイクはしばらく周囲に笑顔を振りまいていたが、用事を思い出しその場を立ち去ることにした。 「必要な物の買い出しをせねばなりませんので私はこれにて失礼します。」 アイクはこの春から学園の高等部に通うことになっている。彼は特待生として入学する為必要な物はあらかた学園側が用意してくれているのだが、『あらかた』であって『全て』ではない。だから買い出しに来たのだ。しかし剣を持って暴れる男に出くわし、それをあっさり撃退して、この騒ぎという訳だ。 (うーん、困ったな……) さあ買い出しだと思ったのだが、アイクファンが群がって来る所為で移動もままならずアイクはほぼ立ち往生状態だ。そんなもの彼が『どけ』と一言言うだけで解決するのだが、せっかく自分を慕ってくれているのにそんなことを言うのは気が引けてしまうアイクだった。 「こらお前ら! アイク様の邪魔になってるってわかんねえのかよ!」 若い男の声が響き、アイクファンたちはハッとしてアイクから離れた。アイクは内心ホッとしながらファンたちに会釈しつつ先ほど声を発した若い男に駆け寄って行った。 「ありがとう、ギース。助かったよ。」 男はギース・リカーナという、アイクの友人だ。今のように助けてくれる為アイクからの信頼は厚い。 前へ |次へ |
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