《MUMEI》
ユウゴがした事
「何かしたか、だって?」
草野は眼鏡をクイっと上げた。
よく見るとフレームが壊れているらしい。

「俺は、何にもしなかったと思うんだけど?」
ユウゴが言うと、彼は頷いた。
「そう、何もしなかったな。ただ見てるだけ。笑いながら。
……俺がベソかくのがそんなに面白かったか?
弁当ひっくり返されて、落ちたおかずを食べる僕が、そんなに面白かったか?」
「……何、言ってんだ?おまえ」

「僕は君が一番嫌いだったんだ。僕がどんなことをされても、馬鹿笑いするわけでもなく、口にうっすら笑いを浮かべて、冷静に、そして満足そうに僕を見る。哀れむわけでも、からかうわけでもない。ただ笑って見てるんだ」
「…サイテー」
後ろでユキナが、ユウゴだけに聞こえるように言った。
ユウゴは肘で小突いた。

「なんだよ、それって逆恨みってやつだろ?」
「なんだっていいよ。僕は君が嫌いだ。だから、殺す」
「殺すって、おまえ、子だろ?その足枷つけてるし」
「だから?」
「いやいや、だから、俺殺しても、なんの得にもなんねえだろ」
「あるさ」
「あ?」
「僕の気持ちが晴れる」
「馬鹿か、おまえ。つか、おまえに人が殺せるのかよ」

 ユウゴの記憶では、草野は臆病で何をされても謝ってばかり。
腕力も弱く、運動神経も切れてるのかと思えるほど悪かった。
そんな男に、人を殺せるとはとても思えない。

しかし、草野は眼鏡をずり上げながら、口の端を上げた。

妙な笑い方をする奴だ。

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