《MUMEI》
入学
「……いつ見ても無意味に大きいな……」

呆れかえった様子のアイクの独白は、元々声量もあまり無かったことも手伝って、風に呑まれて消えていった。

アイクは今、これから通うことになっているアーシェス学園の校門の前に立っている。とは言っても、初等部、中等部とエスカレーター式に進学しているので飽きる程通ってはいるのだが。

そんな彼でさえも思わず呆れてしまう程の規格外のサイズを誇るのが、此処アーシェス学園なのである。恐らく学園の敷地内にある物全てを取っ払えば、そこには大平原が広がっていることだろう。

「まあいいか。早く講堂に行こう。」

今日は高等部の入学式の日だ。新入生代表の挨拶をすることになっているアイクは、練習の為に他の生徒よりも早く来ている。現在午前7時。他の新入生たちが登校するのは8時30分。代表挨拶など学生の感覚からすれば所詮只の貧乏くじでしかない。それに嫌な顔一つしないアイクは、相当人間ができているのだろう。

アイクが講堂に着くと、学園長と教頭、そして司会を勤めると思われる教員が待っていた。

「申し訳ありません、お待たせしてしまったようで。」

「とんでもない! あなた様にこんな朝早くからご足労をかけさせてしまった我々こそ謝罪すべきなのです!」

アイクの謝罪に教頭が過剰とも言える反応をする。そんな教頭にアイクは苦笑するばかりだった。

「兎に角、我々が早く来すぎただけだから君が気にする必要はないぞ。」

微笑みながらそう言ったのは学園長のガリア・ウァステマ。アイクの父・英雄シグルドの戦友の一人で、"鮮烈の魔翁"と呼ばれる程の魔術師である。因みに15年前の大戦――通称双界大戦――時も今となんら変わらぬ容姿だったらしい。さらに言えばシグルドの幼少期から同じ姿だったとか。…………"鮮烈"の異名は苛烈な魔法で敵を薙払うところから付けられた名だが、衝撃的な事実により鮮烈なイメージを与えるという意味合いも含まれる、と彼を知る者は断言する。

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