《MUMEI》
「参加」
 夜なのに必死に鳴いているセミ。いや、夜だからだろうか。夏を報せるそれは清涼感があり、蒸し暑さをある程度手助けしてくれる。
 扇風機が元気に首を振りながら微風を浴びせていた。うちはクーラー反対組なのだ。
 しかし今、体は熱い、頭は寒いという異例の状態に追われている。

「……ふぅ」

 手紙を開けてみて少し驚いたことが二つ。一つ目は作りが全く一緒なこと。二つ目は二枚あること。しかも二枚目は白紙だった。

「……十時か」

 寝てしまおうか。俺はもう踏ん切りがついた。気にしないことが一番だ。
 自室のベッドにダイブインして寝っ転がった。

「おやすみ……」

 ……の前に。

「コンタクト外さなきゃ……」

 俺は特別目が悪いわけではない。まして決してゲームのやりすぎではないしファッションでもない。これには原因があるのだ。寝る前に気づいて良かった。
 とりあえず洗面所に向かった。

「……っつつっと……」

 コンタクトは慎重に取らないと眼球を傷つける恐れがある。だからたとえ朝でも夜でも神経をとがらせる必要がある。
 そしてコンタクトをつける理由は鏡を見ればわかる。

「いつ見ても不思議だな」

 俺の瞳は赤が強めの赤茶色をしているのだ。よく、アニメとかでは瞳の色が黄色だの緑色だのあるが、これは現実世界だ。ちなみに俺は歴とした日本人だ。間違いない。
 さらに両親も日本人だから、おそらく有り得ないはず。でも有り得てしまったのだ。
 ちなみにこれを知っているのはごく少数だ。“知っていた”ならもう少し増えるが。

「まるで何かの主人公みたいだな」

 コンタクトは黒いカラーが入っていて無理やり黒い茶色を作り出している。
 それでも不思議なものだ。誰もそんなことに気付かずに学校生活を送っているのだから。

「……ふぅ」

 これで用はない。安心して寝れる。……ハズだった。

「あれ? 手紙が開いてる。しまい忘れたか」

 自室にある机に置いたのだが、勝手に開いている……だけではない。
 一枚目がぴったりと広げられていたのだ。まるで張り付けられたように。
 既にセキュリティーはセットしたし、物音もしていない。
 つまりは……。

「有り得ない」

 幽霊はいない。絶対にいない。たとえ天と地が……いや、そんなことはどうでもいい。

「一枚目はあれと同じはずなのに、内容が付け足されている……」

 そこにはこう書いてある。


[あなたは死にます。従うか逆らうかは自由。
下にお名前をお書きください。]


「…………」

 とりあえず従うしかないな。いや、待てよ……?
 ペン立てから適当に黒ペンを取り、名前を綴る。


[My name is Ryu Mutsumi.]


 一応読めるように書いた……つもりだ。
 すると、せっかく書いた名前がとけ込むように消えてしまった。普通ならここは驚く場面だが、いちいち反応してたら切りがない。
 そしてそこに代わりの文字が浮かんできた。


[日本語でお書き下さい。あなたは日本人ですよね?]


 そう現れると同様にして消えていった。
 なんかこいつ、ムカつくな……。ジョークが通じないのか? まぁ、書く方も書く方だが。
 今度こそしっかりと日本語の漢字で書いた。

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