《MUMEI》

[それでは同封していたもう一枚を見て下さい。]


 するとまた消えていく。無駄に書かせてごめんなさい。これで大丈夫のようだ。
 でも、まるで誰かと会話しているみたいで不思議だ。……だから手紙なのか?
 もう一枚には冒頭に“説明書”と書かれていた。……説明書?

「えっと、陸奥実 流様、あなたは……! 信じられない、というか意味が解らないぞ」

 そこにはこう記してあった。


[今年でお亡くなりになられます。詳しく申しますと、2019年九月十六日、午前十二時に亡くなられます。]


 それは明確で重々し……くはないが、死亡宣告だった。しかし、日にちが中途半端……でもない。この日は俺の誕生日だ。つまり、俺が十七歳に成った瞬間に死亡するということだ。
 しかもこれはほんの二、三行だ。それだけでもショッキングなのに、まだあるのか……?
 とりあえず続きだ。


[ですが、それを回避する方法がございます。]


 なんとも親切な。


[一、素直に諦める。
二、現在の自分の年齢分だけ関係が全くない他人を抹殺する。
三、最も親しい友人を一人だけ抹殺する。]


「……もう、悪戯にも程があるぞ……! 誰だ、こんな不謹慎な手紙をよこしたヤツは!」

 親切がどうのこうのではない。もう度を超えている。だが、だからと言ってこれを本物の領域に踏み込ませていいのだろうか? いや、まだ堪えきれる。まだ可能性はある。


[注、三をお選びになる際は一つ条件があります。それはあなた自身が手を下さないこと。あなたが“直接”抹殺しなければよいのです。
その他、あなたが従うか逆らうかは自由です。]


「……ふっ」

 俺はそれらを手紙にしまい、机に置いた。

「あっはははははははは……!」

 俺の中の脳内メーターが振り切れ、針が吹っ飛んだ。
 総合した結果、本物という領域に達してしまったのだった。
 割り切りが肝心だ。

「だけど抹殺って……。ふざけすぎだろ……!」

 自分の命の為に他人の命を生贄にする。なんとも醜いことだ。おそらく、金持ちで太っているやつなら、何の躊躇もなく実行しているだろう。
 でも状況はそれとさほど変わらない。

「俺は一体どうすればいいのだろう?」

 現在は六月二十四日。時間はまだ三ヶ月はある。先ほど割り切りが肝心と言ったが、人命に関わるなら話は別だ。
 とりあえず俺はベッドに潜り込んで考えてみた。
 “回避方法”は三つ。諦めるか、無関係の人間を十六人殺すか、親友を一人だけ殺すかだ。“1番”はよくわからないが、諦めるという選択肢はない。“2番”は大量殺戮犯になれということらしい。そんなことをしたら、情状酌量の余地などない。どちらにしても結末は終りだ。

「残りは……」

 “3番”。これは……、俺にはまだ親友と呼べる存在はいない。仮にこれからできるとしても選ぶ気はさらさらない。しかも直接的な殺害が禁止というのは意味がわからない。殺せと言っているのに手を下すなということだ? 殺し屋にでも頼めというのか?

「…………」

 それにしても、どうして俺なのだろう? 特に変わった生活はしていないし、ここに来て恨みを買うようなこともしていないし…………うーん…………、……わからない……。
 しかし、どうやら限界が来たようだ。今日の溜まりに溜まっていた疲れが俺の脳を緩慢にさせていく。このままいけば、眠れるという自覚が強くあった。……それが止まった時、完全にストップした。

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