《MUMEI》
悪魔のルール
朗報が届いた。
沢村翔原案の波形作品が大反響。
「次回作もどんどん書いて」と編集部から言われ、ギャラも入った。
翔は燃えた。
「全部ライムのおかげだよ」
「優しいね翔君は」
遅れている支払いはゼロ。光熱費はすべて支払い、借金はない。家賃も滞納していない。
それで財布にも数万円入っていて、銀行にも18万円。家にも少しある。
「考えられない」
人間は飢えると猛獣になる。ちょっとしたことで激高してしまう。
健康、裕福、安全。
これは、人間の幸福の条件とも言える。
自分のことで精一杯だった状態から、一転。攻撃態勢に入った。
いよいよ悪魔を暴く。しかしマンガの生命線は面白さだ。つまりギャグが重要。ここは深刻に書くよりも、悪魔をコミカルに描いたほうがいい。
翔はライムの話を聞きながら、ほとんどストーリーは組み立てていた。
「ライム」
四畳半の部屋で二人はお膳を囲んでいた。
「くだらない質問してもいい?」
「何?」ライムは笑顔で聞く。
「もちろん交わるのはダメなのはわかったけどさあ」
「その話に戻るのね」
「愛撫は?」
「ぷっ…」
ライムは思わず笑う。
「ホントに肉食動物ね」
「違う。とことん人間なだけだ」
ライムはやや顔を赤く染めた。
「愛撫なんかさせないよ」
「やっぱし」
「だって、そこまで許したら恋に落ちたと見られても仕方ないでしょ」
「そっか」
「ヤらしい」
「それはライムが魅力的過ぎるのが悪いんだよ」
「何それ?」
意外な切り返しに、ライムは照れる。
「前門の翔。後門の悪魔。地球に安全な場所はないか」
「悪魔にさらわれるよりはマシだろ?」
「悪魔のルールはもっと残酷よ」
「悪魔のルール?」
ライムはおなかを触る。
「悪魔に攻められて、エクスタシーに達したら、消滅してしまうの」
翔は言葉が出ない。目を丸くしてライムを見た。
「消滅って」
「悪魔に心はないの。人間的な感覚で見たらダメよ」
あまりに現実離れした話に、翔も答えようがない。
「とにかく急ぐよ。ライムの安全が第一だ」
「ありがとう翔君」
翔はノートパソコンに猛然と向かった。
「あたし、買い物に言ってくるね」
「気をつけなきゃダメだよ」
「大丈夫よ」
「ライム」
「心配しないで」
ライムは明るい笑顔を見せると、部屋を出た。
今のところ順調にことが進んでいる。しかし船が勢いよく前進すれば波風が立つように、悪魔は幸福になろうとする人の邪魔をする。
「断固阻止せねば!」
ライムの目は燃えた。
穏やかな川の流れ。ライムは橋を渡りながら、何となく川岸に目をやった。
「え?」
5歳くらいの小さな女の子が一人で遊んでいる。おもちゃのシャベルで、一生懸命に土を小さなバケツに入れている。
「危ないなあ」
ライムは顔をしかめた。近くに母親らしき人物は見当たらない。
仕方なくライムは川岸へ降りていった。
「危ないよ」
「え?」
声をかけられて、女の子がびっくりして立ち上がる。
「キャッ」
その拍子にバランスを崩して川に落ちてしまった。
「あっ!」
ライムはバッと服を脱ぎ捨て、裸足になった。純白の水着が眩しく光る。
助走をつけて飛び込んだ。川は深い。女の子は沈んでいく。ライムは必死に潜って追う。
でもおかしい。人がこんなに深く沈むだろうか?
疑問に思った瞬間、墨が破裂したように広がった。
(ん?)
その墨の中から巨大タコが出現。
(罠だ!)
ライムは慌てて方向転換。急いで川から顔を出した。息つぎをしたのも束の間、両足を引っ張られた。
(まずい)
オクトパエスだ。名前の通り究極のサディスト。捕まれば終わりだ。
ライムはもがく。だが両足だけではなく両手もぐるぐる巻きにされ、水中で逆さまにされてしまった。
(しまった!)
必死に暴れるライム。オクトパエスはテレパシーで語りかけた。
(ライム。久しぶり)
(離せ!)
(やだ)

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