《MUMEI》
プロローグ2
「打撲だからよ、あっちこっち痛いはず、だけど骨はどこも折れてないから大丈夫なはず、城間先生はさ大酒飲みだけどよ腕はいいはずだからさ、診察した時はよ酒飲んでなかったから心配ないはず。」
男はなんとか怪我をして気を失っていたらしい事は理解が出来た。しかしそれ以外は思い出そうにもぼんやりとしていて何も記憶の断片すら浮かんでこなかった。
腰をしばらく摩りながら困った顔をしていた男がやっと口を開いた。
「すみません、ここは一体どこなんですかね?まったく何がなんだか訳が分からなくて、、。それとすみません貴方は誰でしょうか?」
髭面の男は持っていた包丁をまな板の上に置くとタオルで手を拭きながら調理場から出て来た。
「ここはヤンバルさ、」何気ない顔をして男はそう答えた。
「ヤンバル分かる?沖縄の田舎の事、分かる?」男は首を横に振った。
「僕は儀間朝栄、朝に栄えるでチョーエイね。でさ、今度はこっちの質問なんだけどさアンタはウチナンチュね?顔がハブカクチャアだから沖縄だと思ったけど訛りが無いさあね、だからよ、」
まずここが沖縄であることもさらに自分が誰だかも分からなかった。逆に聞きたいくらいだった。「だからよ、お互いになんにも知らない訳よ、診療所の比嘉先生がよ、外傷も無いし、時間立てば記憶も戻るからって言うからよ、診療所だから入院出来ないしさ、仕方ないから家に連れて来た訳よ。急にアンタが飛び出して来たからさすがに避けれんかった訳、怪我はなかったけどやっぱり事故はドライバーに責任あるからって事になってさ、ここに連れて来たって訳よ。ここまでは分かる?」
男は一応うなづいたもののなぜそうなったかも分からないしどうしたらいいのかもさっぱり分からなく困りきった顔をして黙っていた。
「聞いていいかね?ところでアンタは誰なんかね?荷物も持って無かったし身寄りが分かるモノを何も持って無いからさ、まったく誰だか分からんかった訳よ、ここまでも分かる?」
男はり首を縦に振ったもののどうしていいか分からく困り果てた。
「困ったねぇ、記憶喪失はまだぜんぜん治らんみたいさね、だからよぉー、そんなアンタをまさか追い出す訳にいかんさ、どうするかね?」
すると困り果てた顔をしたまま黙りこんでしまった男の腹がグググーッと鳴った。
「寝てても腹は空くから無理も無いさね、オッケーじゃあなんか作ろうね、まずお腹になんか入れようね。焦ることないよ、少しずつ思い出したらいいさあ、」
そう言って髭面の男は調理を始めた。待っている間、男が店の中を見回してみると手書きのメニューには聞いた事も無い料理の名前が沢山書いてあった。壁には他にウミガメの剥製や魚拓、さらに水着姿のモデルがビーチでビールジョッキを持っているビール会社のポスターが貼ってあった。男はその海をどこかで見たような気がした。頭の中に浮かんだ映像とそのポスターの写真とが重なったような気がした。しかし何が接点なのかは全く分からなかった。
しばらくしたら料理が出来上がった。苦いブツブツのある瓜科の野菜に豚肉と豆腐を卵で絡めた料理に中味汁という豚の内蔵を塩味で煮込んだ料理だった。初めて食べる味なのになんとなく懐かしい気がした。中味汁を二杯とご飯を三杯お代わりをすると男は満腹になり気分が落ち着いたようだった。
「あこれもさ、何かの縁さね、きっと何か理由があるはず。だからゆっくりしたらいいさあ、その内に何かを思い出すはずだからさ、気にしなくていいからここにいたらいいさあ。」
確かに男はここにいるしか道は無かった。サトウキビ畑で出合い頭にぶつかった縁で出会った男の家に居候をすることになった。

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